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黒い墨滴、白い和紙。


黒い墨滴、白い和紙。_c0203121_404048.jpgいま、話題の映画『書道ガールズ!!わたしたちの甲子園』を、5月15日公開初日に観てきました。書道パフォーマンスで、紙の町に活気を取り戻そうとする高校生の女の子たち。実話にもとづく、この映画には、いたるところに、観る側のひとたちの原風景と重なる、いいシーンが随所に出てきます。それは、いまの高校生だけでなく、この私たちの大人の世代にも息づいているもの。また、ほろ苦い懐かしい青春と呼ぶには、ウブだったうら若き日々の自分と向き合う時間もあり、こみ上げてくるものを止めることができないほど、感動しました。躍動する彼女たちの大筆捌きは、まるで日本刀を振りかざす、凛としたサムライのごとく、白い着流しに黒い袴、朱色の襷かけの勇姿には、見惚れるほどの迫力と、決して諦めないぞという、決意が滲み出ていました。http://wwws.warnerbros.co.jp/shodo-girls/

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思い起こせば、私が最初に書道の手ほどきを受けたのは、今は亡き父。愛媛の片田舎の商店街の紳士服のお店屋さんの娘として生まれた私は、まさに、この映画の文房具屋さんの好永清美役(田畑充希)の女の子のように、仲の良い父と娘でした。その父が、お正月という文字を半紙でなく、大きな和紙に書いて、初筆書きとして冬休みの課題作品として仕上げなさいと言い出したのです。その上、初めて握るような大きな大きな筆を持たされました。その筆は、確か狸の毛で誂えた代物で、小学3年生の私には、異物にしか思えず、下膨れのラインをしたこの筆は苦手でした。それでも、父のいいつけを守らないと当時の親子関係は厳しい躾けの賜物で子ども等は育つという時代でした。(私が生まれ育った伊予三島市は、近年隣町と合併し、現在は、四国中央市です)。 

黒い墨滴、白い和紙。_c0203121_10203991.jpg泣き泣き、何枚も何十枚も、いえ、百枚近くは書いたであろう「お正月」という大きな筆文字の初筆書きは、最後の最後で、ようやく父の気に入りの文字が生まれ、お許しが出て、解放されたのが、夜明け近くになっていた記憶があります。最初から和紙に書かせてはもらえなく、新聞紙を同じ大きさに切り、その古新聞の紙の上に、たっぷり墨汁をつけて、気持ちをこめて一気に書くお習字は、小学3年の私にとっては、忘れられない想い出の作品となりました。なんと、見事に、その書は、金賞をもらい、学校で貼り出され、勢いがついたのか、最後には、地元の銀行、百十四銀行の書道作品展でも飾ってもらえる栄光の軌跡を辿ったのです。しかも、百十四銀行は、うちのお店の斜め前に在る銀行ですから、毎日のように父は喜んでその書を眺めに、銀行に行っては、ご満悦で戻って来るのですから、恥ずかしいやら嬉しいやら。それが幸いしたのか、火がついたのか、父が書道の師匠を見つけてきて、私に本格的に書道を習うように促しました。真鍋先生というダンディな中年男性の書家の師匠は、父とは違い、とても穏やかで和む雰囲気で、小学3年の私に書道を教えてくださいました。

当時、なんで、こんな文字を書くのか不思議だったのがお相撲さんの四股名です。佐田の海だったか、佐田の山だったか…お相撲さんの名前を書いた記憶があります。次第に上達した私は、小学6年までその師匠に手習いをして、書道三段をもらいました。中学になっても続けたかったのですが、残念なことに、真鍋先生が交通事故で急死されたため、引継ぎで来られた代わりの先生には子ども心にも魅力がなく、次第に書道の道から遠のき、中学入学前にやめました。

もっと続けていたら、この映画の高校生みたいに、書道で町おこしをしたかもしれませんね。因みに、私の出た高校は、愛媛県立三島高等学校。そうです!勘のいい人は、もう、お気づきですね。この映画「書道ガールズ!!」の実際のモデル校となった、♪菱門の旗、風に鳴る~♪<三高>、我が三島高校。その書道部の女の子たちの実話が、この「書道ガールズ!!」なんです。http://shodo-performance.jp/~Shodo/


黒い墨滴、白い和紙。_c0203121_3502395.jpgラストシーンで、主役の成海璃子さん演じる早川里子が、20キロにもなる重い大筆にたっぷりとつけた墨の勢いが、鼓動の高波のごとく、ビュンビュンと音をたて、波飛沫を翻しながらも、命をふきこんで描いた文字には、神々しさを感じて胸が打たれました。もちろん、その筆につけた墨の香りは、凛と勇ましい勇気の匂いが奮い立っていたことでしょう。※差込画像は、映画のキャンペーンの模様です。

このブログはアロマについて綴ることがメインテーマですから、墨滴と和紙の匂いについて、私なりの感想を最後の〆にしたためます。手漉き和紙の、陽だまりの日向(ひなた)のようなぬくみと、墨滴の滲む、うれし涙のような淡い香りの混合は、彼女らの汗と涙で、ひときわ、光輝き、キラキラと煌き、観る人の心にも、その感動の香りをもたらしたことでしょう。イノセントは、墨滴の中にも、潜んでいます。しかも、手漉き伊予和紙は、温暖な気候の伊予の風土と、作り手の手業がもたらす、ひなたぼっこのような陽射しの匂いそのもの。そして、その穏やかな人肌の手触りの和紙の感触と手漉きならばこその墨滴の滲みが、味のある字を産み出す、紙の町ならではの、かけがえのない“郷土の誇り”だと感じました。


by aroma-createur | 2010-05-21 03:34 | CINEMA