衣擦れの音と、香の妖しさ・・・

白石加代子さんの一人芝居で表現する『源氏物語』を観賞して、私が感じた心模様を綴ります。



c0203121_4164296.jpg私の本棚には、瀬戸内寂聴さんの現代語訳、講談社創業90周年記念企画の全10巻が並んでいます。それを全て読破しているとは言い切れなく、気になる巻を手にその時その時の感情のおもむくままに読み耽るのが私流の本とのつきあいです。ですから、我が娘が大学院生になり、古典を本格的に学ぶなぞとは思いもよらず、娘にしてみたら、私の源氏物語は、綺麗な装丁で飾っておくものだと感じているようです。(笑)それはそれで、正解です。これでも、昔は、文学少女で本の虫のごとく、毎月本を読んでいたのですが、どうも、この手の本は当時のうぶな私には、気の遠くなるような艶物語で、源氏の移り気と、登場人物の多さにひれ伏した苦い思い出のあるベストセラーです。

それが、今回どうしてもお伝えしておくべき、発見をしたのです。舞台演出の妙も見事ですが、白石加代子さんの和服姿に、舞扇の花が咲いたような手さばきの仕草や所作も必見の価値ある舞台でした。
c0203121_4144094.jpgが、何よりも絢爛豪華な平安王朝の室礼には、部屋を遮る壁がないというのが、語りだけで手にとるようにわかりました。すると、そこは、簾や、蚊帳や、衝立のような、そこはかとなく香が薫る風通しのよい仕掛けになっている訳でして。恋しい方との密会や逢瀬には、衣擦れの音まことしやかに、偲び寄る手に囁くような漏れ聞こえる人影の風情に、残り香が漂う世界が拡がるのです。

こんなことは、プライバシーを大切にしている現代人には及びもつかない、隠し事のできにくい日本家屋の造りでありながらも、何やら、今の日本人が忘れてしまっている、密やかな香り文化の美学がこの時代には、きちんと存在していたことに、私は憧れすら覚えたのです。

御所車の中で、まだ、顔も見ぬ内から、恋文や、裾模様の柄行や、残り香で、その姫君の様子を伺うなんてどれほどの想像力の逞しさと、恋焦がれる段階の心模様が描かれることでしょうか。
ましてや、逢瀬にも暗闇の中で、顔すら知らぬままに、その方をお慕い申し上げることができる知性と品格も匂い立つ文学が、この源氏物語に秘められていることを、大人になったいまこそ、感じ取るべきであり、真似ることができたらと願います。

さ、今宵は、まだ手にしてなかった、第6巻の若菜上下を開き、白石加代子の手招きに誘われるまま、伽羅の香をくゆらせて、身も心も、たゆたうひとときを紐解いて魅せましょうぞ。

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by aroma-createur | 2009-09-28 03:34 | 文化・芸術